GP JOURNAL

書道家 涼風花「反故の山のその先にあるもの」

書道家 涼風花への歩み

三戸:書道を始められたきっかけからうかがわせてください。

涼:小学2年生のときに、祖母にお小遣いをあげるから行っておいでと言われたのがきっかけで書道教室に通い始めました。
順調な時もあれば、半年ぐらい段が上がらない時期もあったりしたのですが、先生がすごくいい方で。
いつか先生みたいになれたらいいなと思って続けていまして、中学2年生のときに師範の資格をいただきました。

三戸:
早いですよね。

涼:
すごく早いというわけでもないんですけど、
中2だと部活とか受験とかで辞めてしまう人も多いので確率としては確かに低めですね。

三戸:
習い事、全然嫌じゃなかったんですか?

涼:嫌ではなかったです。お小遣いももらえていたし(笑)、
先生が相談相手みたいな感じで一緒に勉強してくれる方で、
習い事というより、好きな先輩に会いにいくような感覚でした。

三戸:
私はピアノを習っていましたけど、もう嫌で嫌で。
いかにこの週に1回のレッスンをサボってやろうかみたいな感じでした…。

涼:私の場合は、ほかに空手とピアノを習ってたんですけど、
ピアノだけはいかにサボってやろうかと思ってました(笑)

三戸:
もともと和っぽいものが好きだったんですか?

涼:そうですね。祖母の影響です。一緒に住んではいなかったんですけど、
家が近くて。両親が共働きだったので、学校が終わったら真っ先に祖母の家に行って一緒に時代劇を見ていました。
それから、よく近所でお祭りをやっていて、お囃子に参加したりして、
和の文化に触れる機会が多かったので、近しい存在だったというのはあります。

5歳当時の涼先生。お祭りが大好きなおばあちゃんっ子でした。

三戸:
中2で師範の資格を取られたあとも続けてらしたんですね。

涼:
はい。高校2年生のときにはペン習字の資格ももらって。
そこから将来どう進んでいこうかなと考えたときに、祖母が時代劇が好きだったので、時代劇に出たらきっと喜ぶなと思い、時代劇の女優さんを目指そうかなと思ったんですけど、それを両親に言ったら、東京は危ない、と。
それなら一人で生きていけるように、手に職をつけようと思いまして、
歯科衛生士の専門学校に通い始めたんです。
それで歯科衛生士を2年やりまして、お金が溜まったので東京に出てきて、歯科衛生士のバイトをしながら、事務所に入りました。
そこで、時代劇に出るには演技の勉強をしなくてはいけないと言われて舞台に出ることを勧められたんです。
そうしたら、お客さんをたくさん呼べる人が主役になれるから
ファンを付けるためにレースクイーンの仕事をしなさいということに…。

三戸:
そういう流れなんですね。

涼:
レースクイーンの仕事をやると、お客さんを呼べるよと言われて。
1年間やったんですけど水着の仕事が多くなってきてしまって。
水着で出られる時代劇って、たぶんバカ殿しかない(笑)。
それで辞めました。で、次に考えたのが、書道家になれば大河の題字とかに携われるようになるんじゃないかなと思って、書の道に戻ってきました。

三戸:
実は戦略的な人生ですよね。すべてのことにちゃんと理由があって。

涼:
周りの人に意見を聞くのが好きなんです。
みんなの助けがあって選んできたという感じですね。

三戸:
素朴な疑問なんですけど、中2で先生の資格を取られると、
もう教えることができるということですよね。

涼:
できます。

三戸:
でも、やっぱりお教室には通うんですか。

涼:
はい。資格を取って、そこからがやっと書道家のスタートということなんです。
そこからは芸術面を伸ばしていかなくてはならない。

三戸:
なるほど!長い道のりですね。

涼:
師匠みたいな80歳の人も、
いまだに90歳の人に「おい小僧」と言われるらしいんですよ。

三戸:
奥が深いですね。明確なゴールはないんですね。

プロの「書道家」へ

三戸:
書道にしても歯科衛生士にしても、
やると決めたら最後までやり切るところがすごいと思います。
継続し続ける強さがおありですよね。

涼:
メディアに出始めたときにたたかれたこともありましたし、
自信がなくなってもう辞めたいなと思うこともありました。
でも、その度に、自信をつけるためには辞めたら意味がなくて、
納得いくぐらいうまくなってやり遂げなくてはいけない。
これだけやったんだからという自信を持たないといけないと思って辞めなかったんです。

三戸:
歯科衛生士とか女優さんとかいろいろやられていましたが、「いずれは書の世界に戻る」と思っていらしたんですか?

涼:

そうですね。おばあちゃんになったら書道教室をやろうとは思っていました。

三戸:
先生にとって「お習字が好き」だった少女時代と、
「書道家」としての現在の明確な違いは何ですか。

涼:
やはり責任が発生するところです。頼んでよかったと思われることがプロの義務です。
ただ趣味でやってる分には自分が満足すればいいけれど、自分がうまく書けたと思っても、頼んでくれた人がよかったと思ってくれなければ意味がないですからね。

三戸:
お金も発生するわけですしね。重い責任ですね。

涼:
そうですね。
特に、私は大きな競書大会で賞を取って仕事をもらえるようになったタイプではないので、それは本当に強く感じています。
この人に頼んで失敗したなと思われないように、今できる限りの力でやろうと思っています。

とにかく書き続けることが、上達へのただ一つの道。

三戸:
今でも毎日練習されるものなんですか?

涼:
毎日します。
最初のころはいくらやっても満足してもらえるレベルに達してない気がして、四六時中書いてましたね。
朝起きて書いて、お昼ご飯食べる時間がもったいないから、ちょろっと食べてまたずっと書いて。
夜ご飯食べてまた書いて。一日中同じ文字を書いていたりしました。

三戸:
プロってすごいなあ。

涼:
ただ書けばいいというものではなかったのかなと、今は思ったりもします。
100枚書いて100枚目が一番うまいというわけではないんです。
ファーストインプレッションみたいなもので書いたほうが、実は気持ちも乗っていて、技術的にはイマイチでも思い付いたときのウキウキ感みたいなものがうまく出ていることもある。
粗削りの部分こそが人を引き付けるのかな、と思うこともあります。
ただ、それはやっぱりある程度書けるようになった今だからこそ、言えるのかもしれません。

三戸:
正解がないですね。

涼:
最初は数をこなすしかないんですよ。

三戸:
難しいですね。誰かがそれが正解だよって言ってくれるわけじゃないんですものね。自問自答ですね。

涼:
とにかく書いて書いて、いいと思ったものをつるして眺めて「うーん」と悩んで。
ちょっと時間を空けてもう一回見てということを繰り返していると、もう何書いているか分からなくなって、濁点を書くのを忘れてしまうこともあります(笑)

三戸:
より良い字を書くために、何か必要なことってあるんですか。

涼:
行き詰まったら筆を変えてみるとか、つるつるの紙をざらざらのものに変えてみるとか、別の文字を挟んでみるとか。行書を書いていても、楷書を挟んでみたり、そういうことも効果的ですね。

三戸:
上手な字というのは、何でしょうね。
ある程度までいくと、私たちレベルで言うと、全部上手に見えるんですけど。

涼:
難しいですね。本当に人それぞれの好みなので、その人がこれが一番いいと言ったら、それが一番なんです。

三戸:
イベントで書くことも多いと思うんですけど、衆目の中でパフォーマンスをするのはいかがですか?

涼:
私、とても緊張するタイプなので、緊張してても、目をつぶってても書けるように普段から練習しておかなくてはといつも思ってますね。
腕が覚えるぐらいのレベルまで。

練習済みの半紙の山。これこそが素晴らしい作品を創り上げる源泉です。

ほころびが人の心をひきつける

三戸:
今でも、教えてらっしゃるんですよね。

涼:
ペン字教室が多いですね。

三戸:
よく考えると、字を教えるって難しそうですね。

涼:
ちゃんと教えられてるかいつも不安です。字というのは、
角度が正確に決まっているわけではないので、お手本を見て「なるほど」と思っても、いざ書いてみると全然違うということはよくあると思うんです。

三戸:
確かに。でも字を習うっていいですね。
字がきれいな人は魅力的ですよね。男性でも女性でも。

涼:
字がうまかったらうまかったで、素敵だなとは思うんですけど、
下手でもそれはそれで「あ、かわいいな」って思いますよ。

三戸:
なるほど。

涼:
きれいな楷書だとしても、それがパソコンの字みたいに見えては面白くないですしね。
ちょっとほころびがあるからこそ、気に留まる字になるのかもしれないと思っているんです。

三戸:
人間味みたいなことなんでしょうか。

涼:
そうですね。そういうものが、文字に現れると思います。

三戸:
整い過ぎない、いい意味でのほころびや
人間性が出るような字を書くためにはどうしたらいいんでしょうか。

涼:
私は、まだそこまで達していないんです。
まだ未熟だと思っているからこそ大量に書くんですよね。
本当に仙人クラスになったら、いっぱい書かなくなるかもしれないですけれど。
自信がついたら最初の一枚を大切にできるのかな…。
今の私は、何枚も書いた安心感がないと駄目なんです。

やり続けるしかない

三戸:
ほかの分野のアートとのコラボはありますか?

涼:
たまにあります。一度、栃木の佐野市というところで、
若い女性書道家と一緒にやったことがあります。
彼女が周りの文字を書いて、私が真ん中にボンと書く。
漢字と仮名で専門が分かれていたので出来たことですね。

三戸:
コラボレーションは楽しいですか。

涼:
楽しいですね。
一人じゃ絶対できないことが出来ますから。
いつも一人なので、仲間がいて一緒に舞台に立てると心強くて嬉しいです。

三戸:
普段、絵をごらんになったり、音楽を聴いたり、それがいい意味でのインスピレーションになったりしますか?

涼:
そうですね。行きますけど、なかなかつかみ切れないです。

三戸:
総じて謙虚ですよね。

涼:
私、すべてを分かって理解した上じゃないと語れないんです。
中途半端で語ると、知ったかぶりになってしまうし。
言えることはもう、とにかく書くしかないし、やり続けるしかない、ということだけなんです。

三戸:
なるほど。それってすごい芸術魂だと思います。
今日はありがとうございました。
(終)

INTERVIEWインタビュー

2016JUN

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