インドの魅力と広がるイベントの可能性

こんにちは。GLOBAL PRODUCEの柳瀬暁人です。
最近、GLOBAL PRODUCEに海外からのお問い合わせが少しずつ増えてきました。主軸は日本国内でのイベントプロデュースですが、海外に拠点を持つ企業や団体との接点も広がってきています。こうした変化の中に、時代の流れと新たな可能性の広がりを感じています。
中でも、特に印象に残っている案件があります。それはインドに支社を持つ生命保険会社からのご相談でした。共有いただいた資料や映像を拝見する中で、何より心に残ったのはその場の「空気感」です。参加者が楽しそうに踊り、会場全体がエネルギーと温かさ、そして一体感に包まれている様子がとても印象的でした。その感情の開放性や祝祭的な雰囲気、そして圧倒的な熱量は、日本のビジネスイベントではなかなか見られないものです。改めて、インドという国の奥深さを感じさせられました。
私は大学時代、国際関係学を専攻し、特にインドの政治・経済・インド太平洋戦略について学んでいました。当時は、安全保障や外交、経済成長といったマクロな視点からインドを捉えていましたが、実務を通して触れるインドは、データや戦略だけでは語りきれない魅力を持っています。人々のエネルギーや多様な価値観、そして伝統と革新が共存するダイナミズムこそが、この国の本質なのかもしれません。
今回、『インドの野望 人口・経済・外交―急成長する大国の実像』という本を読み、改めてインドの魅力と複雑さに向き合う機会となりました。同時に、国際情勢の話にとどまらず、私たちイベント業界にとっても多くのヒントを与えてくれる内容だと感じました。
本記事では、本書で描かれているインドの姿をもとに、イベントという視点からその意味を考えていきたいと思います。
伝統とテクノロジーが共存する国、インド
本書の冒頭では、インドにおけるマッチングアプリの急速な普及が紹介されています。お見合い結婚という文化が根強く残る一方で、スマートフォンの普及によって新しい出会いの形が広がっています。
ここで印象的なのは、新しいテクノロジーが古い価値観を置き換えるのではなく、その上に重なる形で広がっているという点です。
また、本の中で指摘されているように、インドは「リープフロッグ(段階飛び越し)」が起きやすい環境にあります。モバイル決済の急速な普及もその一例で、紙幣廃止政策やコロナ禍、Aadhaar(国民ID制度)の整備などが重なり、デジタル金融のインフラが一気に拡大しました。
社会の変化を映し出すイベント
こうした変化は、イベント業界にも重要な示唆を与えてくれます。というのも、イベントは、社会の変化がいち早く表れる場の一つなのです。消費者の動き、企業の勢い、政策の方向性、新しい技術の普及、価値観の変化……それらは展示会やカンファレンス、インセンティブ、プロモーション、コミュニティイベントなどの形で現れてきます。
だからこそ、インドを理解する上で大切なのは、人口やGDPではなく、人々がどのように集まり、何に惹かれ、どのような体験に価値を感じるのかだと感じています。
多様性は難しさであり、強みでもある
印象的だったのが、インドの多様性はビジネスにおける難しさであると同時に、大きな強みでもあるという点です。食文化一つとっても北部と南部で大きく異なり、ベジタリアンの割合が高く、州によっては飲酒が制限されていることもあります。
日本企業がインドに進出する際、単なる翻訳や価格調整だけでなく、商品そのものを見直す必要があるケースも少なくありません。CoCo壱番屋の現地メニュー開発や、日清食品の味や量の調整、キッコーマンの「インド中華」への対応などは、その代表的な例です。
「インド向け」ではなく「誰のためのイベントか」
この考え方は、イベントにもそのまま当てはまります。インド関連のイベントでありがちなのは「インド」という一つの市場として捉えてしまうことです。しかし、実際のところ、インドは複数の市場が重なり合った存在に近いと言えます。
言語、宗教、食習慣、地域性、所得水準、都市と地方の違い、国際経験の有無……インドと一言で言っても、その内実はバラバラです。そのため、日本で成功したフォーマットをそのまま持ち込むだけではうまくいきません。
大切なのは「このイベントは誰のためのものか」を明確にすることです。
同じインド国内のイベントでも、政府関係者向けなのか、スタートアップ向けなのか、学生や若手エンジニア向けなのかによって、設計は大きく変わります。言語、受付導線、ケータリング、宗教的配慮、移動手段、ギフト、ネットワーキング、エンターテインメントなど、すべてにおいて丁寧なローカライズが求められるのです。
産業の成長とイベント需要
インドの産業の変化が、そのままイベント需要につながっている点も印象的でした。再生可能エネルギー、EV、半導体、デジタル決済といった分野は、今後のイベント需要を生み出す重要な領域です。
企業が市場に進出することで、キックオフやパートナー会議、展示会出展、社内イベント、表彰式、採用イベント、記者発表など、さまざまな機会が生まれます。つまり、産業の動きを読むことは、イベント需要の未来を読むことにもつながります。
半導体が生む新たなコミュニケーションの場
中でも半導体分野は注目すべき領域です。インドは投資誘致を強化しており、グローバルなサプライチェーンの再編の中でも重要性を増しています。
半導体工場の建設は単なる設備投資ではなく、政府、海外本社、パートナー企業、メディアなど、多くの関係者を巻き込むコミュニケーションの場を生み出します。そこにおいてイベントは、単なるセレモニーではなく、国家と企業をつなぐ重要な役割を担います。
インド太平洋における意味
外交的な観点から見ても、インドの重要性はますます高まっています。日本にとってインドは、有望な市場であると同時に戦略的パートナーでもあります。
そのため、インド関連のイベントは単なるビジネス機会にとどまらず、経済連携や人材交流、技術協力、文化発信といったさまざまな意味を持つ場になっていくと感じています。
数字だけでは見えない成長
本書を通して強く感じたのは、インドの成長は数字だけでは捉えきれないということです。人口の増加は市場の拡大だけでなく、価値観の多様化や都市問題、エネルギー需要の増加にもつながります。経済成長は所得の向上だけでなく、中間層の拡大や競争の激化も伴います。
インドは、その複雑さごと成長している国だと感じました。
複雑さを企画のヒントに
イベントに携わる私たちにとって、この複雑さは単なる難しさではありません。むしろ、より良い企画を生み出すためのヒントでもあります。
表面的な理解ではなく、社会構造や地域性、生活感覚まで踏み込んで理解すること。そしてそれを空間や演出、コンテンツ、導線、ホスピタリティに落とし込むこと。
そこに、グローバルイベントの本質があるのではないかと感じています。
未来を映す国としてのインド
インドは、これからの世界の変化を先取りしている国の一つです。人口増加、都市化、デジタル化、エネルギー転換、製造業の再編、地政学的な影響力の拡大——これらは企業のあり方やコミュニケーションの形を大きく変えていきます。
そしてイベントは、そうした変化をいち早く受け取り、リアルな形にしていく産業でもあります。
終わりに
インドを理解することは、単に一つの国を理解することではありません。それは、これから企業がどのように人とつながり、信頼を築き、共通の価値を生み出していくのかを考えることでもあります。
本書は、インドという国の姿を描くだけでなく、私たちの仕事の未来を考える上でも多くの示唆を与えてくれる一冊でした。
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